教授法は試験の「言語と教育」領域で配点が高く、毎年必ず複数問が出題されます。年代・特徴・代表的な研究者をセットで覚えると効率的です。
本記事は、文法訳読法から最新のCLIL(内容言語統合学習)まで、主要な教授法を体系的に整理した網羅版です。
1. 教授法の流れ(年表)
| 年代 | 教授法 | 主な思想 |
|---|---|---|
| 19世紀以前 | 文法訳読法(GTM) | 古典学習の延長、文法と翻訳重視 |
| 19世紀末 | 直接法(Direct Method) | 母語を使わず目標言語のみで |
| 1940年代 | オーディオリンガル法(ALM) | 行動主義、習慣形成 |
| 1960〜70年代 | 認知主義教授法、TPR、サイレントウェイ、CLL、サジェストペディア | 心理学的多様化 |
| 1970年代〜 | コミュニカティブアプローチ(CLT) | 機能的能力重視 |
| 1980年代〜 | ナチュラルアプローチ | クラッシェン理論の応用 |
| 1990年代〜 | タスクベースド学習(TBL) | タスク中心 |
| 2000年代〜 | CLIL、内容言語統合学習 | 内容と言語の同時学習 |
| 現代 | アクティブラーニング、ブレンディッドラーニング | 協働・ICT活用 |
2. 文法訳読法(GTM:Grammar Translation Method)
時代:19世紀以前から継続
特徴
- 母語と目標言語の翻訳を中心とする
- 文法規則の暗記
- 古典文学の読解が目標
- 教師主導、教師中心
- 発音・会話は重視しない
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 文法知識が体系的に身につく | 実用的なコミュニケーション能力が育ちにくい |
| 大人数クラスでも実施可能 | 学習者の動機が下がりやすい |
| 教師の発音力が高くなくてもよい | 4技能(特に話す・聞く)が伸びにくい |
試験出題例
「文法訳読法の特徴を選べ」「現代の日本語教育で文法訳読法が批判される理由は」など。
3. 直接法(Direct Method)
提唱:19世紀末、ベルリッツ(Maximilian Berlitz)が体系化
特徴
- 母語を使わない(目標言語のみで授業)
- 自然な習得を模倣(母語の習得過程に近い)
- 会話・口頭練習中心
- 帰納的に文法を学ぶ
- 視覚的補助(実物・絵)の活用
日本における直接法
長沼直兄の「ナガヌマ式」が有名。日本語学校でも長く採用されてきた手法。
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 自然な発話力が育つ | 抽象的概念の説明が難しい |
| 母語の悪影響を避けられる | 教師の目標言語運用能力が必須 |
| 学習者の関与が高い | 進度がゆっくり |
4. オーディオリンガル法(ALM:Audio-Lingual Method)
時代:1940〜1960年代、米国軍隊での外国語訓練がきっかけ 理論的背景:行動主義心理学(スキナー)、構造主義言語学(ブルームフィールド)
特徴
- 習慣形成としての言語学習
- 文型練習(パターンプラクティス)中心
- ミムメム(mim-mem:模倣・暗記)
- 音声優先(聞く→話す→読む→書くの順)
- 誤りは即座に訂正
- ドリル中心
ドリルの種類
| ドリル | 内容 |
|---|---|
| 模倣ドリル | 教師の発話を真似する |
| 代入ドリル | 一部を入れ替える |
| 変形ドリル | 肯定→否定、現在→過去など |
| 結合ドリル | 2文を1文にする |
| 応答ドリル | 質問に答える |
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 文型・発音が定着しやすい | 機械的で意味のある発話が育ちにくい |
| 教えやすい・評価しやすい | 創造的な言語使用に転用しにくい |
| 構造が体系的に習得できる | 学習者の主体性が薄い |
5. 1960〜70年代:心理学的多様化
TPR(Total Physical Response:全身反応教授法)
提唱者:アッシャー(James Asher, 1969)
- 教師が出す命令文に学習者が身体で反応
- 「立ってください」「ドアを開けてください」など
- 母語の習得に近づける(赤ちゃんが理解→発話の順)
- 初級・幼児向けに有効
サイレントウェイ(Silent Way)
提唱者:ガッテーニョ(Caleb Gattegno, 1963)
- 教師は極力沈黙
- 学習者が自分で発見する
- フィデルチャート、カラーロッドなどの教具を使う
- 学習者の自律性を重視
CLL(Community Language Learning:共同体言語学習)
提唱者:カラン(Charles Curran, 1972)
- カウンセリング心理学の応用
- 学習者を「クライアント」、教師を「カウンセラー」に見立てる
- 学習者が言いたいことを母語で言い、教師が目標言語に訳す
- 心理的安全性の確保
サジェストペディア(Suggestopedia)
提唱者:ロザノフ(Georgi Lozanov, 1979、ブルガリア)
- 暗示・リラックス・音楽の活用
- 学習者の心理的バリアを取り除く
- バロック音楽を流して文章を読み上げる手法など
- 短期集中での効果を主張
6. コミュニカティブ・アプローチ(CLT:Communicative Language Teaching)
時代:1970年代〜現在の主流 理論的背景:ハイムズ(Hymes)の「コミュニケーション能力」概念
背景
ALMの「文型はできるが実際に話せない」という限界への反省から登場。「言語を使って何ができるか」を重視。
コミュニケーション能力の構成(カナル&スウェイン)
| 能力 | 内容 |
|---|---|
| 文法的能力 | 語彙・文法・音声の知識 |
| 社会言語的能力 | 場面に応じた使い分け |
| 談話的能力 | 文をつないで談話を作る |
| 方略的能力 | 伝えるための工夫・補正 |
CLTの特徴
- 意味のあるコミュニケーションを中心に活動
- ペア・グループワークの活用
- インフォメーションギャップ活動
- ロールプレイ・シミュレーション
- 教師の役割は「ファシリテーター」
- 誤りには寛容(流暢さ重視)
CLTで使われる活動
- インフォメーションギャップ:互いに違う情報を持って質問し合う
- ジグソー:複数の情報を持ち寄って完成させる
- ロールプレイ:場面を想定して役を演じる
- ディスカッション:意見交換
7. ナチュラルアプローチ(Natural Approach)
提唱者:クラッシェン&テレル(Krashen & Terrell, 1983)
クラッシェンのモニター理論を授業に応用。
特徴
- 理解可能なインプット(i+1)を大量に与える
- 沈黙期(silent period)を尊重
- 産出は強制しない
- 文法ルールの明示的指導は最小限
- 情意フィルターを下げる雰囲気作り
CLTと組み合わさって使われることが多い。
8. タスクベースド学習(TBL/TBLT:Task-Based Language Teaching)
提唱者:プラブー(Prabhu)、ロング(Long)、ウィリス(Willis)など、1980年代〜
特徴
- タスク(実生活で意味のある言語使用課題)を中心に授業を組む
- タスクを通じて文法・語彙が必要に応じて学ばれる
- 結果重視(タスクが完成するか)
タスクの例
- 道案内をする
- 旅行プランを立てる
- 新聞記事を要約する
- 苦情を伝える
TBLのフェーズ(Willisの3段階)
| フェーズ | 内容 |
|---|---|
| プレタスク | 導入・準備、必要語彙の確認 |
| タスクサイクル | タスク実行 → 計画 → 報告 |
| 言語フォーカス | 振り返り・言語項目の整理 |
9. 内容言語統合学習(CLIL:Content and Language Integrated Learning)
提唱:1990年代〜、欧州を中心に普及
特徴
- 「内容」と「言語」を同時に学ぶ
- 例:英語で歴史を学ぶ、日本語で経済を学ぶ
- 4つのCを重視(Content・Communication・Cognition・Culture)
- 大学・中等教育で広がる
日本語教育での応用
- 留学生向けの「日本語で日本文化を学ぶ」科目
- 育成就労向けの「日本語で介護技能を学ぶ」コース
- ビジネス日本語と業界知識の同時学習
10. その他の現代的アプローチ
コンテントベース・インストラクション(CBI)
CLILと類似。内容(コンテンツ)を媒介に言語を学ぶ。
プロジェクトベースト・ラーニング(PBL)
学習者が一定期間プロジェクトに取り組み、その過程で言語を使う。
反転授業(Flipped Classroom)
事前に動画などで知識を学び、教室では応用活動を行う。
ブレンディッドラーニング
対面とオンラインを組み合わせる。
アクティブラーニング
学習者の能動的な参加を促す総称的アプローチ。協働学習・問題解決学習など。
11. 教授法を「比較」する切り口(試験頻出)
教授法は単独で問われるだけでなく、比較でも問われます。
母語使用の有無
| 母語使用OK | 母語使用NG |
|---|---|
| 文法訳読法、CLL | 直接法、ナチュラルアプローチ |
文法の扱い
| 明示的 | 暗示的 |
|---|---|
| 文法訳読法、ALM | ナチュラルアプローチ、TBL |
教師の役割
| 教師中心 | 学習者中心 |
|---|---|
| 文法訳読法、ALM | CLT、TBL、サイレントウェイ |
重視するもの
| 正確さ | 流暢さ |
|---|---|
| 文法訳読法、ALM | CLT、TBL |
12. 教授法の選び方(実践編)
「どの教授法が一番いいか」という単純な答えはありません。学習者の目的・年齢・学習環境・教師の力量によって最適解は変わります。
場面別の傾向
| 場面 | 適した教授法の傾向 |
|---|---|
| 大学受験向け | 文法訳読法的アプローチ+読解 |
| 海外日本語学習者 | コミュニカティブアプローチ+直接法 |
| 認定校の留学生 | CLT+タスクベースド+ALM的ドリル |
| 育成就労100時間 | 内容言語統合学習+場面シラバス |
| 子供の日本語教育 | TPR+ナチュラルアプローチ |
| 在留外国人の生活日本語 | CLT+場面シラバス |
現在の日本語教育では「ひとつの教授法に固執せず、目的に応じて使い分ける」のが一般的です(折衷的アプローチ)。
13. シラバスとの関係
教授法と関連するのがシラバス(教える内容の選定・配列)。
シラバスの種類
| シラバス | 内容 |
|---|---|
| 構造シラバス | 文法項目を配列 |
| 場面シラバス | 場面別(駅で・病院で)に整理 |
| 機能シラバス | 機能別(依頼・許可・提案)に整理 |
| 話題シラバス | トピック別 |
| 技能シラバス | 技能別(読む・書く・話す・聞く) |
| タスクシラバス | タスク別(TBLと連動) |
| 概念シラバス | 概念(時間・空間・量)別 |
試験頻出ポイント
- 「みんなの日本語」は構造シラバス(文型シラバス)の代表
- 「まるごと」は CEFR / JF日本語教育スタンダードに準拠した複合的シラバス
- 構造シラバスは積み上げが容易だが、実用場面で困ることがある
14. 試験頻出のミニ確認問題
- ALMの理論的背景は何か → 行動主義心理学・構造主義言語学
- TPRの提唱者は誰か → アッシャー
- CLTで重視される「コミュニケーション能力」を提唱したのは誰か → ハイムズ
- カナル&スウェインのコミュニケーション能力の4つの構成要素を挙げよ → 文法的能力・社会言語的能力・談話的能力・方略的能力
- ナチュラルアプローチの基盤となる理論は誰の理論か → クラッシェン
- タスクベースド学習のWillisの3フェーズを答えよ → プレタスク/タスクサイクル/言語フォーカス
- CLILの「4つのC」を挙げよ → Content・Communication・Cognition・Culture
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