文法は日本語教員試験で配点の高い領域のひとつ。さらに、応用試験の事例問題でも前提知識として要求されます。本記事では、頻出のテンス・アスペクト・ヴォイス・モダリティ・自他動詞・名詞修飾・主題などを、教育文法の観点から一気に整理します。
学校で習う「学校文法」とは異なる視点(日本語教育文法)が試験では問われるため、その違いも明記しました。
1. 学校文法と日本語教育文法の違い
| 項目 |
学校文法 |
日本語教育文法 |
| 動詞分類 |
五段・上一段・下一段・カ変・サ変 |
グループ1(う動詞)・グループ2(る動詞)・グループ3(不規則) |
| 助動詞 |
細かい分類 |
「〜たい」「〜ない」など項目ごとに扱う |
| 形容詞・形容動詞 |
別カテゴリ |
イ形容詞・ナ形容詞 |
| 助詞 |
格助詞・接続助詞・副助詞・終助詞 |
用法別に整理(「が」=主語マーカー、対象マーカー、新情報マーカー) |
試験では基本的に日本語教育文法の用語で問われます。
2. テンス(時制)
テンスは発話時を基準にした時間関係を表します。日本語のテンスは「ル形」「タ形」の2項対立。
| テンス |
形 |
意味 |
例 |
| 非過去(ル形) |
食べる・行く |
現在・未来・恒常・一般 |
毎日コーヒーを飲む |
| 過去(タ形) |
食べた・行った |
過去・完了 |
昨日コーヒーを飲んだ |
注意:日本語の「ル形」は未来形でもある
英語の現在形・未来形のような形態的区別は日本語にはない。「明日行く」は「ル形」で表す。
名詞文・形容詞文のテンス
| 文型 |
非過去 |
過去 |
| 名詞文 |
学生だ/学生です |
学生だった/学生でした |
| イ形容詞 |
高い |
高かった |
| ナ形容詞 |
静かだ |
静かだった |
3. アスペクト(相)
アスペクトは動作の時間的な局面を表します。テンスとは異なる軸です。
主要なアスペクト形式
| 形 |
意味 |
例 |
| 〜ている |
進行・結果状態・経験・反復 |
食べている/結婚している |
| 〜てある |
動作の結果状態(人為的) |
窓が開けてある |
| 〜ておく |
準備・放置 |
確認しておく |
| 〜てしまう |
完了・残念・後悔 |
食べてしまった |
| 〜ていく |
変化の継続(未来へ) |
寒くなっていく |
| 〜てくる |
変化の出現(過去から現在へ) |
寒くなってきた |
「〜ている」の多義性(試験頻出)
「〜ている」は4つの意味を持ちます:
| 用法 |
例 |
動詞のタイプ |
| 動作の進行 |
食べている、走っている |
継続動詞 |
| 結果の状態 |
結婚している、知っている、住んでいる |
瞬間動詞・状態動詞 |
| 経験・履歴 |
富士山に2回登っている |
動作動詞 |
| 反復・習慣 |
毎朝コーヒーを飲んでいる |
継続動詞 |
試験頻出のポイント:「結婚している」は進行ではなく結果の状態。瞬間動詞「結婚する」の動作は一瞬で終わり、その結果が継続している。
動詞のタイプ分類(金田一の分類)
| タイプ |
特徴 |
例 |
| 状態動詞 |
静的、〜ている形にしない |
ある、いる、要る、できる |
| 継続動詞 |
動作が時間的に継続 |
食べる、書く、走る |
| 瞬間動詞 |
動作が瞬時に完了 |
死ぬ、結婚する、着く |
| 第4種動詞 |
〜ている形でしか使わない |
優れている、ばかげている |
4. ヴォイス(態)
ヴォイスは動作主と動作の影響を受ける対象の関係を表します。
受身(受動態)
| 種類 |
特徴 |
例 |
| 直接受身 |
他動詞文の対格を主語に |
弟が兄に殴られた |
| 間接受身(迷惑受身) |
自動詞でも成立、被害的意味 |
雨に降られた/泣かれた |
| 持ち主の受身 |
体の一部・所有物が動作の対象 |
私は財布を盗まれた |
使役
| 種類 |
例 |
| 強制使役 |
親が子供に勉強させる |
| 許可使役 |
親が子供を遊ばせる |
使役受身
「先生に立たされた」(立つ + 使役 + 受身)
短縮形:「立たされる」(〜される)。「読まされる」「書かされる」など。
ヴォイスの活用形(試験頻出)
| 動詞 |
受身 |
使役 |
使役受身 |
| 書く(う動詞) |
書かれる |
書かせる |
書かされる/書かせられる |
| 食べる(る動詞) |
食べられる |
食べさせる |
食べさせられる |
| する |
される |
させる |
させられる |
| 来る |
来られる |
来させる |
来させられる |
注意:う動詞の使役受身は短縮形を使うのが一般的(「読まされる」)。「読ませられる」も可だが現代日本語では稀。
5. モダリティ(法性)
モダリティは話し手の判断・態度を表します。大きく2つに分かれます。
認識モダリティ(事態に対する話し手の判断)
| 形式 |
意味 |
| 〜だろう |
推量 |
| 〜かもしれない |
可能性(低〜中) |
| 〜にちがいない |
確信 |
| 〜はずだ |
当然の予測 |
| 〜ようだ/〜らしい/〜そうだ |
様態・伝聞 |
評価モダリティ(事態への話し手の働きかけ)
| 形式 |
意味 |
| 〜なければならない |
義務 |
| 〜てもいい |
許可 |
| 〜たい |
希望 |
| 〜つもりだ |
意図 |
| 〜よう |
意志 |
「〜そうだ」の2つの用法(試験頻出)
| 用法 |
接続 |
例 |
| 様態 |
動詞ます形+そうだ |
雨が降りそうだ |
| 伝聞 |
普通形+そうだ |
雨が降るそうだ |
6. 自動詞・他動詞
区別の基本
| 種類 |
特徴 |
例 |
| 自動詞 |
目的語をとらない |
ドアが開く |
| 他動詞 |
目的語をとる(「を」) |
ドアを開ける |
自他のペア(試験頻出)
| 自動詞 |
他動詞 |
| 開く(あく) |
開ける |
| 閉まる |
閉める |
| 始まる |
始める |
| 終わる |
終える |
| 入る |
入れる |
| 出る |
出す |
| 落ちる |
落とす |
| 倒れる |
倒す |
| 起きる |
起こす |
| 止まる |
止める |
| 集まる |
集める |
| 決まる |
決める |
形態的パターン:
- 〜aru(自) / 〜eru(他):始まる/始める
- 〜ru(自) / 〜su(他):出る/出す、落ちる/落とす
- 〜eru(自) / 〜u(他):割れる/割る、切れる/切る
7. 名詞修飾(連体修飾)
日本語の名詞修飾は名詞の前に修飾節を置きます(英語と語順が逆)。
例:
名詞修飾の制約
修飾節と被修飾名詞の関係性は基本的に2タイプ:
| タイプ |
関係 |
例 |
| 内の関係 |
修飾節内の要素として被修飾名詞が解釈できる |
私が読んだ本(本を読んだ) |
| 外の関係 |
解釈できない |
魚を焼くにおい、本を読んだこと |
「の」と「が」の交替
修飾節内の主語は「の」に置き換えられる。
例:
これは試験で問われる重要なポイントです。
8. 「は」と「が」(試験頻出)
最も難しい助詞の使い分け。試験では複数の観点から問われます。
「は」の主な用法
| 用法 |
例 |
| 主題 |
鈴木さんは医者です |
| 対比 |
私はコーヒーは飲むが、紅茶は飲まない |
| 排他 |
子供にはやさしい(他にはどうか不明) |
「が」の主な用法
| 用法 |
例 |
| 主格(主語) |
雨が降る |
| 対象 |
寿司が好きだ/英語ができる |
| 排他的指定 |
あの人が鈴木さんです(他ではなく) |
| 中立叙述(新情報) |
公園で子供が遊んでいる |
「は」と「が」の使い分けの原則
- 新情報には「が」、既知情報には「は」
- 「むかしむかし、おじいさんがいました。おじいさんは…」
- 疑問詞が主語のとき「が」
- 対比の文脈で「は」
- 総記(排他的指定)で「が」
9. 助詞の使い分け(頻出ペア)
「に」と「で」(場所)
| 助詞 |
用法 |
例 |
| に |
存在の場所 |
公園に犬がいる |
| で |
動作の場所 |
公園で犬が遊ぶ |
「に」と「へ」(方向)
| 助詞 |
用法 |
例 |
| に |
到達点 |
学校に行く |
| へ |
方向 |
学校へ行く(ほぼ交換可) |
「を」と「が」(対象)
| 助詞 |
用法 |
例 |
| を |
他動詞の目的語 |
パンを食べる |
| が |
「好き」「上手」「できる」などの対象 |
パンが好きだ |
10. 文末表現と文体
普通体・丁寧体
| 種類 |
動詞 |
名詞文 |
形容詞文 |
| 普通体 |
食べる/食べた |
学生だ/学生だった |
高い/高かった |
| 丁寧体 |
食べます/食べました |
学生です/学生でした |
高いです/高かったです |
敬語の3分類
| 種類 |
機能 |
例 |
| 尊敬語 |
動作の主体を高める |
おっしゃる、いらっしゃる、お読みになる |
| 謙譲語 |
動作の主体を下げる |
申す、参る、お読みする |
| 丁寧語 |
聞き手に丁寧 |
です、ます、ございます |
5分類(2007年文化審議会)
実は文化審議会の指針では5分類されています:
- 尊敬語(行く → いらっしゃる)
- 謙譲語Ⅰ(聞く → 伺う:相手側を高める)
- 謙譲語Ⅱ(行く → 参る:聞き手に対する丁重さ)
- 丁寧語(です・ます)
- 美化語(お酒・お米)
試験頻出:「参る」は謙譲語Ⅱ(丁重語)であり、Ⅰではない。
11. 試験頻出のミニ確認問題
- 「結婚している」はどの「〜ている」用法?
→ 結果の状態
- 「窓が割れている」と「窓が割ってある」の違いは?
→ 前者は自然発生も含む結果状態、後者は人為的な動作の結果状態
- 「られる」の4つの用法を挙げよ
→ 受身・尊敬・可能・自発
- 「読まされる」は何の活用?
→ 読む(う動詞)の使役受身(短縮形)
- 「先生がおっしゃる」の敬語の種類は?
→ 尊敬語
- 「私の書いた手紙」の「の」は何に交替できるか?
→ 「が」
- 「むかし、おじいさんがいました。おじいさんは…」 — 2文目に「は」が使われる理由は?
→ 既知情報になったため
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本記事の文法用語・分類は日本語教育で広く使われる体系に基づいています。学派により用語が異なる場合があります。