第二言語習得(SLA:Second Language Acquisition)は、試験の「言語と心理」領域で配点の中心となるテーマです。研究者の名前と理論をペアで覚えることで効率よく得点できます。
本記事は、試験頻出のSLA理論を、年代順・研究者別に整理した網羅版です。
1. SLA研究の流れ
SLA研究は大きく3つの時期に分かれます。
| 時期 | 主流の考え方 | 代表的な理論 |
|---|---|---|
| 〜1960年代 | 行動主義(習慣形成) | 対照分析仮説 |
| 1970〜1980年代 | 認知主義(メンタルなプロセス) | 中間言語、インプット仮説 |
| 1990年代〜 | 社会文化的アプローチ | ZPD、足場かけ、社会文化理論 |
2. 行動主義の時代
対照分析仮説(CAH:Contrastive Analysis Hypothesis)
提唱者:ラドー(Robert Lado, 1957)
母語と目標言語の違いが学習困難を生むという考え方。母語と異なる部分が習得困難、共通する部分は習得しやすいと予測。
例:英語話者の日本語学習で、英語にない助詞「は・が」は困難、SVO→SOV語順転換は困難、など。
対照分析仮説の問題点
実際には、対照分析で「困難」と予測した項目が学習者にとって易しかったり、その逆もあるなど、予測が当たらないケースが多く見られた。
3. 誤用分析(Error Analysis)
提唱者:コーダー(S. P. Corder, 1967)
学習者の誤用そのものを分析することで、学習過程を明らかにしようとするアプローチ。
誤用の分類
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 言語間の誤り(interlingual) | 母語からの転移 |
| 言語内の誤り(intralingual) | 目標言語の規則の過剰一般化 |
例:
- 言語間:「私は学生です」を「I am student desu」と言う(英語の冠詞欠落の影響)
- 言語内:「行きました」を学んだ後、「来ました」を「来きました」と作る(過剰一般化)
ミステイクとエラーの区別
- ミステイク(mistake):単発のうっかりミス。修正可能。
- エラー(error):体系的な誤り。学習者の中間言語の表れ。
4. 中間言語(Interlanguage)
提唱者:セリンカー(Larry Selinker, 1972)
学習者が持つ独自の言語体系を「中間言語」と呼び、母語にも目標言語にも還元できない動的なシステムだとした。
中間言語の特徴
- 体系的:規則性がある
- 可変的:場面・状況により揺れる
- 発達的:習熟度により段階的に変化する
- 化石化(fossilization):ある段階で発達が止まり、誤用が固定化することがある
化石化の例
英語話者の日本語で「私は日本に行く」を「私 行く 日本」と語順を残したまま固定化、長年改善しないなど。
5. クラッシェンのモニター理論(5つの仮説)
提唱者:クラッシェン(Stephen Krashen, 1982)
5つの仮説からなる影響力の大きな理論。試験で最も頻出。
① 習得・学習仮説(Acquisition-Learning Hypothesis)
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 習得(acquisition) | 無意識的・自然な過程。母語の習得と類似 |
| 学習(learning) | 意識的・体系的な学び。文法ルールの暗記など |
クラッシェンは「学習」よりも「習得」を重視。
② 自然順序仮説(Natural Order Hypothesis)
文法項目の習得には自然な順序があり、教える順序を変えても習得順序は変わらない。
例:英語のing形 → 複数形のs → 過去形のed の順に習得される(明示的指導の有無に関係なく)。
③ モニター仮説(Monitor Hypothesis)
「学習」によって得た知識は、発話の監視(モニター)にしか使えない。実際の発話は「習得」した知識から生まれる。
④ インプット仮説(Input Hypothesis)
学習者は現在のレベル(i)よりも少し上(+1)のインプットを理解することで言語を習得する。「i+1」という表現で頻出。
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| Comprehensible Input | 理解可能なインプット |
| i+1 | 現在のレベルより少し上 |
⑤ 情意フィルター仮説(Affective Filter Hypothesis)
学習者の不安・モチベーション・自信といった情意要因が、インプットの取り込みを左右する。フィルターが「下がる」(=リラックス)と習得が進む。
試験頻出:5つの仮説の名前と提唱者「クラッシェン」をセットで覚える。
6. ロングのインターアクション仮説
提唱者:マイケル・ロング(Michael Long, 1981)
クラッシェンの理論を発展させ、意味交渉(negotiation of meaning)の重要性を強調。
意味交渉
学習者と相手が、伝わらない部分を繰り返し・言い換え・確認などで調整する過程。これによりインプットが理解可能になる。
例:
- 学習者:「えーと、それ、テーブルの上の…」
- 母語話者:「あ、リモコンですか?」(明確化)
- 学習者:「リモコン、はい」
インターアクション仮説の主張
意味交渉が起きる相互行為(インターアクション)を通じて、学習者は理解可能なインプットを得て、習得が進む。
7. スウェインのアウトプット仮説
提唱者:メリル・スウェイン(Merrill Swain, 1985)
カナダのイマージョンプログラム研究から、「インプットだけでは不十分」と主張。アウトプット(産出)こそが習得を促進すると指摘。
アウトプットの3つの機能
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| ① 気づき | 言いたいことを表現できないと気づき、注意が向く |
| ② 仮説検証 | 自分の言語仮説を試して、相手の反応で確認 |
| ③ メタ言語的振り返り | 自分の発話を振り返って分析 |
試験頻出:「アウトプット仮説 = スウェイン」のペアで覚える。
8. ヴィゴツキーの社会文化理論
提唱者:ヴィゴツキー(Lev Vygotsky, 1896-1934、発展は1980年代以降)
学習を社会的・文化的な活動として捉える。
ZPD(最近接発達領域:Zone of Proximal Development)
「自力でできること」と「他者の助けでできること」の間にある領域。学習はこのZPDで最も効果的に起きる。
足場かけ(Scaffolding)
教師や他の学習者がZPD内で行う一時的な支援。学習者が自力でできるようになると外す。
例:
- 最初は教師がモデルを見せる(足場あり)
- ペアで支え合う(足場あり)
- 一人で活動する(足場なし)
9. その他の重要理論
モニター理論への批判(マクラフリン)
クラッシェンの「習得」と「学習」の区別は理論的に検証困難という批判。マクラフリン(McLaughlin)は統制的処理 vs 自動的処理という認知的枠組みを提案。
スキル習得理論(Skill Acquisition Theory)
提唱者:デケイザー(Robert DeKeyser)
言語学習は他の技能と同じく、「宣言的知識(declarative knowledge)→ 手続き的知識(procedural knowledge)→ 自動化(automatization)」のプロセスを経る。
認知言語学・用法基盤モデル
学習者は文法規則を抽象的に学ぶのではなく、具体的な用例の蓄積から徐々にパターンを抽出する(用例ベース)。
10. 学習者要因
SLAでは、学習者の個人差が重要な研究テーマ。
動機づけ(モチベーション)
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 統合的動機 | 目標言語の文化に溶け込みたい |
| 道具的動機 | 仕事・受験などの道具として |
| 内発的動機 | 学ぶこと自体が楽しい |
| 外発的動機 | 報酬・評価・義務 |
ガードナー(Gardner)の社会教育モデル、ドルニェイ(Dörnyei)のL2自己システムなどが頻出。
言語適性(Language Aptitude)
ある人が言語を習得しやすいかを示す素質。MLAT(Modern Language Aptitude Test)などで測定。
学習ストラテジー
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 認知ストラテジー | 反復・要約・推測 |
| メタ認知ストラテジー | 計画・モニター・評価 |
| 社会的ストラテジー | 質問・協働 |
| 情意ストラテジー | 不安管理・自己励まし |
オックスフォード(Rebecca Oxford)の分類が頻出。
個人差を生む要因
- 年齢(臨界期仮説)
- 性別
- 性格(外向性・内向性)
- 認知スタイル
11. 臨界期仮説(Critical Period Hypothesis)
提唱者:レネバーグ(Eric Lenneberg, 1967)
ある時期(思春期前後)を過ぎると、母語並みの言語習得が困難になるという説。
議論の現状
- 発音については若年学習が有利という証拠が多い
- 文法・語彙については、必ずしも年齢で決まらない
- 「臨界期」より「敏感期」という表現を使う研究者も増えている
12. 言語転移(Language Transfer)
母語が目標言語の習得に影響を与える現象。
| 種類 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 正の転移 | 似ている部分が習得を助ける | 韓国語話者の日本語の語順習得が早い |
| 負の転移(干渉) | 違いが誤用を引き起こす | 英語話者の助詞欠落 |
| 回避 | 母語にない構造を使わずに済ませる | 関係節を避ける |
13. SLA研究の主要研究者と理論(暗記表)
| 研究者 | 主要理論・概念 | 年代 |
|---|---|---|
| ラドー | 対照分析仮説 | 1957 |
| コーダー | 誤用分析、ミステイク/エラー | 1967 |
| レネバーグ | 臨界期仮説 | 1967 |
| セリンカー | 中間言語、化石化 | 1972 |
| クラッシェン | モニター理論(5仮説)、i+1 | 1982 |
| ロング | インターアクション仮説、意味交渉 | 1981 |
| スウェイン | アウトプット仮説 | 1985 |
| ヴィゴツキー | ZPD、社会文化理論 | 1934 |
| ガードナー | 統合的・道具的動機 | 1972 |
| ドルニェイ | L2自己システム | 2005 |
| オックスフォード | 学習ストラテジー分類 | 1990 |
| デケイザー | スキル習得理論 | 1998 |
暗記のコツ:研究者の名前と理論名をセットで「クラッシェン = i+1 = インプット仮説」のように繋げる。
14. 試験頻出のミニ確認問題
- クラッシェンの5つの仮説を全て挙げよ → 習得・学習仮説/自然順序仮説/モニター仮説/インプット仮説/情意フィルター仮説
- 「i+1」とは何のことか、提唱者は誰か → 学習者の現在レベルより少し上のインプット。クラッシェン
- アウトプット仮説の提唱者と、3つの機能を答えよ → スウェイン。①気づき②仮説検証③メタ言語的振り返り
- ZPDの提唱者と、その意味を述べよ → ヴィゴツキー。自力でできることと他者の助けでできることの間の領域
- 中間言語の特徴と「化石化」を説明せよ → 学習者が持つ独自の言語体系。発達が止まり誤用が固定化することを化石化と呼ぶ。提唱者はセリンカー
- 統合的動機と道具的動機の違いを述べよ → 統合的:目標言語文化に溶け込みたい/道具的:仕事や受験のため
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本記事は試験対策の参考情報として整理したものです。SLA理論には研究者間で立場の違いもあるため、参考書での確認も推奨します。