「認定校に転職しようか考えている」「今の学校は告示校だけど、認定校との違いは?」——求人票や職場での会話に出てくる「告示校」「認定校(認定日本語教育機関)」という言葉は、実はまったく異なる制度に基づいています。
どちらの学校で働くかによって、求められる教員資格・カリキュラムの組み方・学習者の背景が異なります。本記事では、2つの区分の制度的な違いを整理し、現場で働く先生にどんな影響があるかを示します。
1. 「告示校」とは何か
**告示校(こくじこう)**は、法務省(出入国在留管理庁)の告示によって「留学ビザで入国した外国人が就学できる学校」として認められた日本語学校です。正式名称は「法務大臣が告示した日本語教育機関」といいます。
何のための制度か
告示校制度の目的は、在留資格「留学」を持つ学習者の受け入れを適正に管理することです。日本語学校が留学生を受け入れるには、この告示への掲載が必要であり、入管法・出入国在留管理庁の監督下に置かれます。
学習者の多くは、専門学校・大学進学を目指す外国人や、就労を目指す外国人です。
告示校の主な要件(2025年時点の概要)
- 施設・設備の基準(教室面積・定員など)
- 教員資格(後述。旧資格での経過措置あり)
- 授業時間数(年間760時間以上など)
- 出席管理・在籍管理の義務
- 入管への定期報告義務
告示校の認定・管理は**出入国在留管理庁(入管)**が担当します。
2. 「認定日本語教育機関」とは何か
認定日本語教育機関は、2023年に改正された「日本語教育の推進に関する法律」に基づき、新たに創設された制度の区分です。日本語教育の質を保証する観点から、国が定める基準を満たした機関を文化庁が認定する仕組みです。
何のための制度か
認定日本語教育機関制度の目的は、日本語教育の質の確保と、登録日本語教員(新制度の国家資格)の活躍の場を整えることです。
2027年4月施行の育成就労制度では、「100時間の日本語教育」の担い手として認定日本語教育機関(登録日本語教員)が想定されています。
認定日本語教育機関の主な要件(2025年時点の概要)
- 登録日本語教員を教員として配置すること(経過措置あり)
- 文化庁が定める新カリキュラム基準に沿った教育課程を持つこと
- 教育の質保証に関する記録・評価体制を持つこと
- 定期的な報告・審査を受けること
認定・監督は文化庁が担当します。
3. 2つの制度の違い — 一覧で整理
| 比較軸 | 告示校 | 認定日本語教育機関 |
|---|---|---|
| 根拠となる法律 | 出入国管理及び難民認定法 | 日本語教育の推進に関する法律(改正) |
| 監督省庁 | 出入国在留管理庁(入管) | 文化庁 |
| 制度の目的 | 留学ビザ学習者の適正受け入れ管理 | 日本語教育の質保証 |
| 主な学習者 | 留学ビザ(留学生) | 問わない(育成就労候補者・就労者・生活者なども) |
| 教員資格要件 | 旧来の資格要件(養成課程修了・大学専攻等)または経過措置 | 登録日本語教員(新国家資格)または経過措置 |
| カリキュラム基準 | 旧来の標準的なカリキュラム案等 | 日本語教育の参照枠に基づく新基準 |
| 育成就労100時間講習 | 担当できない(登録日本語教員が必要) | 担当できる |
4. カリキュラムの違い
告示校のカリキュラム
告示校のカリキュラムは、旧来の文部科学省が示した**「標準的なカリキュラム案」**や、各学校の裁量に基づいて設計されてきました。
構成のイメージ:
- 初級・中級・上級のレベル区分
- 「話す・聞く・読む・書く」の4技能
- 授業時間数の基準(年間760時間以上など)
- 生活・進学・就労など学習者の目的に応じた内容
学校ごとに使用するテキスト(「みんなの日本語」「日本語総まとめ」等)や、授業の組み立て方は大きく異なっていました。
認定日本語教育機関のカリキュラム
認定日本語教育機関では、「日本語教育の参照枠」(2021年文化庁公表)に基づくカリキュラム設計が求められます。
日本語教育の参照枠は、欧州言語共通参照枠(CEFR)の考え方を参考に、日本語教育向けに整理したものです。
特徴的な考え方:
- 能力レベルを6段階(A1〜C2相当)で示す
- 「何ができるか(Can-do)」を基準に学習目標を設定する
- 知識の暗記より「言語を使って何が達成できるか」を重視
- 学習者の多様な背景・目的に対応した記述
先生の立場から見ると、「この課で〇〇の文法を教える」という従来の課中心の設計から、「この段階で学習者は〇〇ができるようになる」という到達目標中心の設計に移行していく方向性です。
5. 教員資格の違い
告示校での資格要件(旧制度)
これまで告示校の教員に求められた資格要件は、以下のいずれかを満たすことでした(概要):
- 日本語教師養成課程修了:420時間以上の養成課程(大学・専門学校・民間機関など)
- 大学での日本語教育専攻:大学・大学院での日本語教育専攻
- 日本語教育能力検定試験合格:公益財団法人日本語教育振興協会の試験
認定日本語教育機関での資格要件(新制度)
認定日本語教育機関では、原則として登録日本語教員を配置することが求められます。
登録日本語教員になるには:
- 日本語教員試験に合格する(基礎試験・応用試験)
- 認定日本語教員養成機関での実践研修を修了する
または:
- 認定された養成機関で規定のカリキュラムを修了することで、試験の一部免除が受けられる経路もあります。
経過措置について
2024〜2025年の制度移行にあたり、旧来の資格(養成課程修了・検定合格など)を持つ先生が一定期間内に登録日本語教員の資格を取得できるよう、**経過措置(みなし措置)**が設けられています。
旧来の資格を持つ先生は、一定期間(概ね2029年度末まで)は経過措置として認定日本語教育機関でも働くことができますが、長期的には登録日本語教員の取得が必要になります。
経過措置の詳細は文化庁・登録日本語教員関連ページで随時更新されているため、自分の該当要件を確認することを推奨します。
6. 「両方を持つ学校」「どちらでもない学校」もある
2025〜2026年時点では、日本語学校の状況は以下のように分かれています:
パターン①:告示校のみ(移行中)
- 留学ビザ学習者を受け入れている
- 認定日本語教育機関の申請をまだしていない、または審査中
- 教員は旧来の資格で働いており、経過措置期間内
パターン②:告示校 + 認定日本語教育機関(両方取得)
- 留学ビザ学習者も受け入れつつ、新制度にも対応
- 育成就労候補者向けの100時間講習も担当できる
- 新旧の教員資格が混在しつつある状態
パターン③:認定日本語教育機関のみ
- 留学ビザ学習者の受け入れを行わない(または申請していない)
- 育成就労・就労者・生活者向けの日本語教育に特化
パターン④:どちらでもない
- 地域日本語教育、ボランティア教室など、制度外の日本語教育の場
求人票には「認定日本語教育機関」という記載があっても、旧来の「告示校」との兼務かどうかは明記されないことも多いです。面接時に「告示校の申請状況」と「認定日本語教育機関の認定時期」の両方を確認すると、学校の立ち位置がより明確になります。
7. 先生への実際の影響
資格の面で
- 現在、旧制度の資格(養成課程修了・検定合格)のみを持っている先生 → 経過措置期間内に登録日本語教員の資格取得を検討する必要がある
- 現在、登録日本語教員の資格を持っている先生 → 告示校・認定日本語教育機関のどちらでも採用要件を満たす
- 現在、無資格・養成課程在籍中 → 告示校では旧来の要件が適用される学校もあるが、長期的には登録日本語教員への取得が実質的に必須になる方向
カリキュラムと授業設計の面で
告示校から認定日本語教育機関に移るか、現在勤務する学校が認定取得に動いている場合、カリキュラムの設計方針が変わります。
具体的には:
- 「〇課を終わらせる」ではなく「〇〇ができるようになる」という目標設定への移行
- 能力記述文(Can-do)を意識した授業設計
- 学習者の評価方法の見直し(知識テストだけでなく、産出・運用の評価も)
急に変わるわけではありませんが、認定校に勤務する先生は「なぜこの活動をするか」の説明に「参照枠」の考え方が入ってくることが増えてきます。
勤務する学校を選ぶ際の判断軸として
告示校か認定日本語教育機関か、どちらが「正解」というわけではありません。どちらの学校にも、働きやすい職場・働きにくい職場があります。
ただし、長期的に日本語教師として働くことを考えているなら:
- 登録日本語教員の資格取得は避けられない方向
- 育成就労制度に関わる仕事(100時間講習など)は認定日本語教育機関でないと担当できない
- 告示校のみの学校では、新制度への移行が遅れると求人・待遇にも影響が出てくる可能性がある
制度の過渡期であるため、求人票に書かれた情報だけでなく「この学校が認定取得に向けて動いているか」も、学校選びの判断材料にすることを推奨します。
参考:制度の変遷を簡単に整理
| 時期 | 動き |
|---|---|
| 〜2022年 | 告示校制度のみ。日本語教師の国家資格は存在しない |
| 2023年 | 「日本語教育の推進に関する法律」改正。登録日本語教員・認定日本語教育機関の制度創設が決定 |
| 2024年 | 登録日本語教員試験開始。認定日本語教育機関の認定申請受付開始 |
| 2025〜2026年 | 移行期間。告示校・認定日本語教育機関が混在。経過措置適用中 |
| 2027年4月 | 育成就労制度施行。100時間講習に認定日本語教育機関・登録日本語教員が関与する想定 |
| 〜2029年度末 | 経過措置期間(旧資格保有者の登録日本語教員みなし措置の目安) |
制度の詳細は文化庁・出入国在留管理庁の公式ページで随時更新されています。本記事は2026年5月時点の情報をもとに整理したものであり、制度の詳細・経過措置の条件は変更される可能性があります。自分の勤務先や資格の扱いについては、学校の教務担当者または文化庁の相談窓口に確認することを推奨します。