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現場・授業

学習者がつまずく文法をどう教えるか — 「て形」「に/へ/で」「は/が」の整理

日本語教育の現場でよく迷う「て形」「助詞」「は/が」の教え方を、実際の授業で使えるアプローチで整理する。

対象: 日本語教師全般 · 認定日本語教育機関勤務 · 告示校勤務

「学習者がどうしても覚えられない」「説明してもピンと来ていないようだ」という文法項目は、先生によって経験が分かれます。一方で、多くの現場で「説明に迷いやすい」として挙げられる項目はある程度共通しています。

本記事では、初級・中級の日本語授業でつまずきやすい文法の代表的なものを取り上げ、授業で使いやすいアプローチを整理します。


1. て形:ルール表よりも「活動でくり返す」

て形(〜て、〜てください、〜ています、〜てもいいですか など)はほぼすべての初級テキストで早い段階に登場します。変化の形が多く、学習者が「表を見ながらでないと作れない」段階が長く続くことも多い項目です。

て形の変化を定着させるアプローチ

て形の形の変化は、グループ別に分けて繰り返し練習するのが一般的です。

  • グループ1(う動詞):語尾によって変化(〜いて / 〜んで / 〜って など)
  • グループ2(る動詞):語幹 + て
  • グループ3(不規則):します → して、きます → きて

ここで大切なのは、「ルール表を配って暗記させる」だけでなく、変化させる練習を何度もくり返すことです。

効果的な練習の例:

  • フラッシュカード(辞書形を見てて形を言う)
  • チェーンドリル(先生が辞書形を言い、学習者が次々にて形にする)
  • て形を使う表現(〜てください、〜ています)とセットで練習する

「形を作る練習」と「意味のある使い方の練習」を交互に入れていくと、形の自動化が進みやすくなります。

「〜ています」の意味の多様さ

「〜ています」は「結果の状態」と「進行中の動作」の両方を表します。これが混乱を生む場面があります。

  • 田中さんは結婚しています。(結果の状態)
  • 田中さんは今ごはんを食べています。(進行中の動作)

どちらの意味を扱うかを明確にして、最初は一方に絞って練習し、もう一方は別の課や別の授業で導入するのが整理しやすい方法です。


2. 助詞「に・へ・で」:意味の重なりが混乱の原因

「に行きます」「へ行きます」「で行きます」の違いを聞かれて答えに詰まった、という経験がある先生も多いのではないでしょうか。

整理の仕方

助詞 主な用法
到達点・場所(存在・目的) 東京に行く / 駅に待ちます / 勉強しにきます
方向・目的地(に と交換可能な場面も多い) 東京へ行く(どちらも使える)
場所(動作が行われる場所)・手段 図書館で読む / 電車で行く

学習者が迷いやすいのは「場所」を表す「に」「で」の使い分けです。

  • 「に」:存在・到着の場所(いる・ある・いく・くる・帰る などと組み合わさる)
  • 「で」:動作が行われる場所(食べる・勉強する・会う などの動作と組み合わさる)

授業での教え方

抽象的な説明より、「いる・ある」なら「に」、それ以外の動作なら「で」という整理を繰り返し練習する方が定着しやすい学習者が多いです。

練習の例として、写真・絵を見ながら文を作る活動が有効です:

  • 「図書館で何をしていますか?」「本を読んでいます。」
  • 「猫はどこにいますか?」「ソファの上にいます。」

3. 「は」と「が」:一番説明が難しい助詞

「は」と「が」の使い分けは、日本語教育でもっとも説明が難しいテーマのひとつです。研究者の間でも長く議論されてきた問題で、単純なルールでは説明しきれません。

初級で使えるシンプルな整理

初級の段階で学習者に伝えるなら、まずは「が」の使う場面を限定して教えるアプローチが現実的です。

よく使われる説明:

  1. 「〜が好きです / 嫌いです / できます」の目的語には「が」を使う

    • 「私は野球が好きです。」
    • 「妹は泳ぎが得意です。」
  2. 新情報の提示に「が」を使う(はじめて出てくる人・物)

    • 「むかしむかし、あるところにおじいさんがいました。」
  3. 疑問詞「だれ・どれ・どれ」が主語のとき

    • 「だれが来ましたか?」「田中さんが来ました。」

この 3 パターンを初級で定着させ、「それ以外はとりあえず「は」を使う」という方針でも、会話の多くの場面は乗り切れます。

中級以降の扱い

「は」が対比・主題を表すこと、「が」が新情報・焦点を表すこと、という踏み込んだ説明は、中級以降に扱う方が理解が深まります。

初級段階で「は vs が の完全なルール」を教えようとすると、かえって混乱することがあります。「今は「が」の使い方を 3 つ覚える」と割り切る方が、現場では機能することが多いです。


4. 文法を「教え終わった」ではなく「また出てくる」と考える

日本語の文法項目は、一度教えたらそれで終わりではなく、後の課でも別の形・別の文脈で何度も登場します。て形も、「〜てください」「〜ています」「〜てもいいですか」「〜てから」「〜ておきます」と形を変えながら繰り返し出てきます。

「この課で完全に理解させよう」と力まずに、「今日は入口を作る。また次の課でも出てくる」という気持ちで教えると、教案設計の负担が少し軽くなります。


5. 「なぜそうなるか」を聞かれたとき

「なぜ「に」を使うのですか」「「は」と「が」の違いは何ですか」——学習者から質問されて答えに詰まることがあります。

正直に「日本語にはそういうルールがあります。まず使い方を覚えましょう」と伝えるのも一つの方法です。母語にない概念を「理由」で理解させようとするより、たくさんの例文で慣れさせる方が定着が早い文法項目もあります。

先生が「わからない」と感じているときは、「これは難しい質問で、日本語の研究者の間でも議論があります。今日は〇〇という使い方に絞って覚えましょう」と率直に伝えることも、学習者との信頼関係をつくる上で有効な場合があります。


文法の教え方に「これが正解」というものはありません。クラスの学習者・テキスト・目標に合わせて少しずつ試行錯誤を重ねていくなかで、先生自身の「引き出し」が増えていくものだと思います。

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